谷川俊太郎

<ひとり>


  ほっといてほしいの おねがいだから

  めをつむるわ なにもみえないように

  みみをふさぐわ くちもつぐむわ

  でも こころはなくしてしまえないから

  おもいだしてしまうの つらいこと


  わたしをいじめるあなたは にくくない

  あなたも ほかのだれかに いじめられてる

  そのほかのだれかも また もっとほかのだれかに
  
  
  わたしたちは みんないじめられてる

  めにみえない ぶよぶよしたものに

  おとなたちがきづかずにつくっているものに

 
  おかあさんのなぐさめも うるさいだけ

  おとうさんのはげましも うっとうしいだけ


  だから いまは ただひとりにしておいて


  ほんのすこしだけ しんでいたいの


  ほんとにしぬのは わるいことだから

  
  おんがくもきかずに あおぞらもみずに

  わたし ひとりで もくせいまでいってくるわ

 


<すいっち>


      だまってればもう?

      くちが ぱくぱく してるだけだよ

      こえが のどから でてくるだけだよ

      ことばが ぽろぽろ こぼれるだけだよ


      しゃべっているのは あんたじゃないよ

      あんたのかおした にんぎょうだよ


      あたまのなかで まわっているのは

      そこらでうってる ろくおんてーぷ


      はっきしいって うるさいだけさ


      なんどもきいた ただしい いけんを

      あいもかわらずくりかえしてる


      だまってればもう?


      じぶんのからだで かんじたいんだ

      じぶんのこころで かんがえたいんだ


      まちがえたってこわくない


      あんたはわたしのまえにいるけど

      なんだか てれびで みているみたい


      けしちゃいたいけど  すいっちがない